ひとみはそういうと、今度はさっきからグラスを持ったまま体を固くしている本谷に向き直る。
「ちょっと、本谷ちゃん、新人だからって遠慮しなくていいのよ? もう、そんな怖いオジサンが横にいるからよねぇ」
ひとみの科白に坂口に何だかだとかまわれていた良太は、はっと顔を上げてほぼ向かいに並んで座っている工藤と本谷に気づいた。
うっわー、これって、まずいっつうか、何っつうか、どうしよ!
ひとみの言ったように、本谷が固くなっているのが、工藤が怖いからだったらよかったものの、真逆の状況なのに、 良太は一人焦った。
や、別に俺が焦らなくてもいいんだけどさ。
なんか、本人たち以外にあのこと知ってるのは俺だけだし。
や、だからって俺がどうの考えることもないんだけどさ。
なんか、本谷、嘘の付けないやつっぽいし。
ってか、そりゃ工藤が本谷のこと気に入ってもらっちゃ困るんだけど……。
もう一度本谷を見ると、なんだか本当に緊張してるようだった。
「あの……」
「どうだ、今度の役は……」
本谷が意を決したように隣の工藤に話しかけたのと同時に、工藤が本谷に話しかけた。
「あっ……はい、やっぱりまだてんで、ヘタクソで、皆さんにご迷惑かけてばっかで…」
本谷の声は緊張しているからか、やけに大きく聞こえた。
良太がえっと思ったのは、滅多にないことだが、珍しく工藤が罵倒するでもなく誰かに声をかけたからだ。
良太は複雑な面持ちで二人を見た。
嫉妬が混じっていないはずもない。
実際、妙に工藤の表情が柔らかくないか?
(風そよぐ より抜粋)
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藤堂が美味しいものを持ってきてくれるのは何もバレンタインとは限らずなので、奈々から藤堂へのチョコを預かったついでに、あまり深くは考えずに藤堂にチョコをあげたこともある。
だったら、工藤にも何かやればよかったかな、なんて。
もっとも、お互いに忙しくて、去年はバレンタインデーなんかあっという間に過ぎてしまったのだ。
だが、二月の終わりに工藤はスキー用具一式くれたし、三月の誕生日には今腕にはめている時計をもらったのだ。
そして暮れには、良太の部屋が一掃されていた。
まだ使えるのに勝手に捨てるなんてと喧嘩になってしまったものの、一応礼は言ったし、工藤の誕生日やクリスマスには、前田の店に工藤の好みの酒を置いてもらうことにしてはいるのだが。
もちろん、お中元とお歳暮という名目で。
バレンタインデーって、やっぱり俺が何かやった方がいいんだろうか。
あの人、そんなのには全く無頓着なんだけど、本人の意思にはかかわらず山のようにプレゼントが届くんだよな。
(バレンタインバトル より抜粋)

